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「S.H.Figuarts スパイダーマン:ファー・フロム・ホームシリーズ」
杉山すぴ豊の洋画フィギュア論 vol.9
「S.H.Figuarts スパイダーマン:ファー・フロム・ホームシリーズ」
2021.01.29
“アメキャラ系ライター”杉山すぴ豊氏が、独自の視点からシネトイ(洋画フィギュア)を語ります。
気に入ったヒーロー映画やモンスター・ムービーのキャラを手元においておきたいという人は多いハズ。BANDAI SPIRITSのコレクターズアイテムブランド「TAMASHII NATIONS」さんの洋画フィギュアはまさにこうした願いをかなえてくれます。その魅力を映画ライターの視点で語っていきたいと思います。今回フィーチャーするのはスパイダーマン!
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)でも大活躍ですが、彼が主役を務めた『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)版のフィギュアをご紹介いたします!
数あるアメコミ・キャラの中でも抜群の知名度と人気を誇るヒーローと言えばスパイダーマンでしょう。クモの力を身につけた青年ピーター・パーカー。彼はその力を使って人々を助ける覆面のヒーロー<スパイダーマン>となります。
彼の武器は壁にはりつくことのできる特異体質と自ら開発した人工クモ糸発射装置です。
このヒーローは1962年マーベル・コミックでデビュー。当時マーベルは大々的にこのヒーローを売り出そうとしてしていたわけではなく、廃刊が決まっていた雑誌に“どうせ最後なんだから、ちょっと変わった読切りヒーロー物を載せてみよう”みたいなノリで掲載したらしい。ところが思いのほか反響をよびヒーロー物として続けることが決まりました。
スパイダーマンがなぜウケたのか?それは“さえない高校生がヒーローになる”というプロット。それまでのヒーローは“大人の男”が主流でした。初めて十代の若者が主人公。しかも彼は “のび太くん”みたいなキャラで(ただ理系の天才でもあるので、いじめられているキテレツくんですかね)パッとしない。その彼がひょんなことから特殊なクモにかまれ超人となる。彼は有頂天になりますが、その傲慢さがたたって最愛のおじを失います。この悲劇から “大いなる力には、大いなる責任が伴う”と悟るのです。
この誕生秘話にはスーパーヴィランとか出てこない、ただひたすら主人公が悩み、落ち込むところで終わるんですね。ヒーロー物というより青春短編みたいな味わいがあります。これがすごく支持された。だからスパイダーマンは、ヒーロー物のフォーマットをかりた青春ドラマ路線を歩み人気を博しています。 彼の冒険は宇宙人から地球を守るとか、世界征服を企む悪の巨大組織と戦うというスケールの大きな話ではなく、NYの街に現れた“常人以上モンスター以下”ぐらいの怪人たちから人々を守るのが主。彼のニックネームは“あなたの街の親愛なる隣人”なのです。
そしてスパイダーマンは子どもたちに大きな希望を2つ与えました。まず“きゃしゃ”だったということ。それまでのヒーローはマッチョ、立派な体型が主流だったのですがスパイダーマンはちょっとやせっぽちで小柄。これには体型に自信のない子どもたちも勇気づけられた。そしてマスク。アメコミ・ヒーローの中で顔を完全に隠すフルマスク型は珍しい。それ故、どの人種の子どもたちもあのマスクの下に自分の顔があると想像できるわけです。こう考えるとスパイダーマンが講談社のコミック、東映の特撮ドラマと日本版が作られたのもうなずけます。スーパーマンみたいな顔だちと肉体の日本人はなかなかいないけれど、スパイダーマンなら日本人体型でも顔でも可能なわけですから。
スパイダーマンの人気の秘密がこうした親近感や共感性であることは間違いないんですが、やはりヒーローとしてのルックス、アクションの魅力もあります。バットマンもそうですが、そもそもコウモリとかクモとか、どちらかといえば悪役っぽいモチーフで作ったヒーローというのはかえってクールだったりする。しかもスパイダーマンの場合、赤と青というおおよそクモっぽくないカラーリングというギャップもキャッチー。
さらにスパイダーマンのアクションも独特。僕はマーベルの伝説のクリエーターで、スパイダーマンの生みの親でもある故・スタン・リー氏に直接うかがったことがあるのですが、今までにないヒーローを作ろうと考えた時、壁にひっつく能力というのを思い付いた。けれどモスキートマン(蚊男)、フライマン(ハエ男)ではヒーローにはならないのでスパイダーにした。そして空を飛ぶ代わりにターザンのようにビルの間をロープ移動する、というイメージが浮かび、クモ糸スィングが生まれたと。きゃしゃな体つきと虫からヒントを得た独特の動き。ハルクやソー、キャプテン・アメリカ、アイアンマンが相手をぶっとばす猪突猛進パワー系なら、スパイダーマンはしなやかな動きが特長のアクロバティック系というわけです。こうした工夫が実り、スパイダーマンはマーベルを代表するキャラとなります。コミックの枠を超え、アニメ、ドラマ、グッズ、テーマパークのアトラクション、そして映画と様々なメディアに登場するようになります。
スパイダーマンの本格的な映画化は2002年から始まるトビー・マグワイア出演の「スパイダーマン」シリーズ3作と、それを一旦リセットして新たに12年からアンドリュー・ガーフィールドを主役に迎えた「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ2作があります。実はこの時マーベルはソニー・ピクチャーズにスパイダーマンの映画化権を渡しており、これらのスパイダーマンはMCUとは別のマーベル映画として存在しました。しかしファンの間でコミックと同様、スパイダーマンとアベンジャーズが共演する映画が観たいという声があがり、ソニーとMCUを展開するディズニーがコラボして新たなスパイダーマン物を作ることになりました。それが、トム・ホランドがピーター・パーカーを演じるMCU版スパイダーマンです。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)でMCUデビューし、単独出演作の『スパイダーマン:ホームカミング』、そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)を経て『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』となります。
『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』の時は戦闘能力全開のアーマーというべき“アイアン・スパイダー”姿ですが『ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』は「これぞ僕らの知ってるスパイダーマン!」的コスチュームになっています。
というわけで今回のフィギュアたちをみてみましょう。
『ホームカミング』版スーツでもある「S.H.Figuarts スパイダーマン(スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム)」は今までの映画のスパイダーマンより、赤と青が明るいコスチュームですがその色が見事に再現されています。
いっぽう「S.H.Figuarts スパイダーマン アップグレード・スーツ(スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム)」は、スペリオル・スパイダーマンというコミックに出てきた赤と黒のスーツに近い色をしております。
正直僕はこの2作のスパイダースーツは、色以外あまり違いはないと思っていたのですが、今回このフィギュアを並べて見比べてみて彩色以外の細かなところも結構変わっているんだなと気づかされました。
映画の設定では 通常のスーツはアイアンマンことトニー・スタークがピーターに渡したスーツ、アップグレード・スーツはピーターが自らデザインしたものです。つまり“ひよっこが大人から与えられた服”と“独り立ちした青年が自分で選んだ服”のような違いがあります。
そのせいか「S.H.Figuarts スパイダーマン」の方がちょっとお行儀よく、「S.H.Figuarts スパイダーマン アップグレード・スーツ」の方がちょい悪な感じがする。「S.H.Figuarts スパイダーマン」の付属品の学校用バッグはこのコスチュームだから似合うのであって「S.H.Figuarts スパイダーマン アップグレード・スーツ」にはふさわしくないのです。
あえて言うならヒーロー人形としての愛らしさは「S.H.Figuarts スパイダーマン」。アクション・フィギュアとしてのかっこよさは「S.H.Figuarts スパイダーマン アップグレード・スーツ」に感じます。
ただ、どちらもスパイダーマンらしいアクロバティックなポーズを再現できるよう可動ポイントが多い。またスパイダーマンはマスクで顔を隠しているがゆえに目の動きで感情を表現するわけですが、今回どちらとも目のパーツがついているので彼の気持ちも表すことができます。
MCU版のスパイダーマンの魅力は、スパイダーマンが駆け出しで先輩ヒーローたちにダメ出しされる掛け合いが面白い。なので他のMCUフィギュアと並べるとスパイダーマンがなんかかわいらしく思えてきます。そしてこの12月、トム・ホランドのMCU版スパイダーマン3作目が公開される予定です。きっとここでまた新しいスパイダースーツになると思うので、その準備として、まず、この2体をコレクションしておきましょう!
Text: 杉山すぴ豊
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